大人の女に手を出さないで下さい
帰り際、これをママに返しておいてくれ、と自分の左手薬指の指輪をはずして英梨紗に渡した。
梨香子が幸せになるまではと付けていた結婚指輪は役目を終えたのだと思うと心なしか気持ちも楽になった気がする。
小さく微笑む英隆に英梨紗が遠慮がちに聞いて来た。

「パパ、ママが結婚することになって寂しい?」

「そうだな…でも、ママが幸せならそれでいい。それにパパには英梨紗がいる。ママが再婚して新しいパパが出来ても、英梨紗の父親はここに居るパパだ。そうだろ?」

「うん!ママが結婚してもパパと会っていいって言ってくれてるから、またデートしようねパパ」

「勿論だ」

無邪気に笑う愛娘の頭を優しく撫で英隆の目尻も下がった。
昔は子供にどう接していいかわからなくて近寄りもしなかったのに今は愛しくて仕方がない。
こんな可愛い娘を産んでくれた梨香子に今更ながら感謝した。

意気揚々と家に帰ってきた英梨紗がはいこれ、と梨香子に預かった指輪を渡す。

「これは…」

一目でわかる英隆の結婚指輪。
よく見れば小さな傷が沢山入っていて本当に長年着けていたとわかる。
今自分が付けている婚約指輪よりもくすんでいる指輪を見て、役目を終えたんだなと梨香子も悟った。英隆もきっとホッとしてることだろう。

でも…。
こんなもの私に渡されても処分に困るんだけどと英隆の顔を思い浮かべて呆れた。
あの日の夜の事は問い質すことなくあれ以来会っていない。
あれもきっと気の迷いだと思うことにした。
3人の男が気を迷わせるなんて私は男を惑わす小悪魔だったのかしらとふと思う。
でもすぐナイナイと手を払って馬鹿げた考えを消し去った。
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