大人の女に手を出さないで下さい
「そんな大事な相手なら忘れるなよ」

父のうっかりに呆れ顔で蒼士はスーツを受け取った。
大体、大事な取引先のお嬢さんって誰だ?と、聞こうと思って口を開きかけた時、鼻先に指を差された。

「いいな、4時にはここを出るからそれまでに仕事終わらせとけよ。時間厳守だ。ぼけっとしてる暇はないぞ」

「う…」

どうやら蒼士がぼーっと考え事をしてたのをバッチリ見られてたらしい。
言葉に詰まってる間に父は残業は認めないからな!と念を押し、そそくさと出て行ってしまった。

「いったいなんなんだ…」

ばつの悪そうな顔をしていた父が気になる。
それほど大事な取引先を父が忘れるなんて珍しい。
仕方がない、相手は誰だかわからないが今日は梨香子に逢う予定も無かったしこれも付き合いだから行くしかないか。
皺が付いてるといけないのでスーツカバーを開けスーツを出しておこうと出して固まる。

「なぜ、燕尾服…」

夜の正装である燕尾服は結婚式ではよくある格好だが、蒼士のイメージでは新郎か近しい親族が着るイメージだ。
普通のスーツでいいだろうと思ったが、それだけ大事な取引先と言うことなのだろう。
スーツをコート掛けに引っかけ、いったい誰の結婚式だ?と、蒼士はまた頬杖を着き考えるのであった。

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