大人の女に手を出さないで下さい
「あたしのパパ!今日はパパとデートだったの!」

「ああ…そう…」

嬉しそうに速水の腕を取りにっこり笑う英梨紗。
速水は英梨紗から蒼士のことを聞いていたのだろう。別段驚くこともなくこの間はどうもと挨拶してきた。
思いもよらない元夫の出現、しかもそれが会社でこれからお世話になろうという速水弁護士だったことに蒼士は言葉が出て来ず会釈だけに留まった。

「久しぶりだな梨香子」

「ええ、本当に」

まさかここで会うとはと梨香子も呆然としている。

「立ち話も何だから中に入ろう」

一人落ち着き払っている速水に促され梨香子と蒼士は彼の後を付いて行く。
そしてどうしたことか、別々に予約をしたというのに気を利かせた店主に個室を用意され4人一緒のテーブルに着くことになった。
梨香子は蒼士のことを友人と紹介した。
間違ってはいないがなんとも苦い気持ちのまま蒼士は改めて速水と挨拶した。

丸テーブルに梨香子と速水の間に座った英梨紗は嬉しそうに両親の顔を見やる。
3人を目の前にしてこれが本来の親子、家族の姿だと思うと蒼士は居たたまれない。

「俺はお邪魔かな…今日は失礼させてもらいます」

「だめ、蒼士くんもここに居て」

席を立とうとしたら梨香子にスーツの裾を抑えられ驚いて彼女を見れば不安そうな目をこちらに向けている。
初めて梨香子に頼られてる気がして蒼士はストンとまた椅子に座った。

「まあ、いいじゃないか。梨香子と英梨紗がお世話になってるようだし、三雲副社長とも話をしてみたかったんだ」

速水は穏やかに蒼士に言ってメニュー表に目を落した。

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