大人の女に手を出さないで下さい

「な、に言ってんだよ…親父がそんなこと言うのか…?」

まさか家柄や年齢を気にして蒼士には相応しくないとそう言いたいのか?
敏明は梨香子のことは好感を持っていると思っていたのにそんなこと言うとは思いもよらず蒼士は憤りを感じた。
今は仕事で社長と呼ばなきゃいけないのにそんなことも忘れて唖然と父を見下ろす。
速水も敏明の言葉に視線が鋭くなった。
例え離婚したとはいえ元妻を蔑む言い方は面白くないだろう。
そんな視線にも気付かない敏明は蒼士を睨み上げた。

「…違う、何事言ってんだ蒼士は。まだまだ青いお前に国永さんは勿体無いと言ってるんだ。あの年頃の女性は一番魅力的なんだぞ?強かで逞しくて女らしい。若いものには出せない経験という武器が彼女を輝かせてる。そうは思わんかね速水くん」

「はぁ…?」

憤ってた気持ちはどこへやら…蒼士は拍子抜けして気の抜けた声を出した。
敏明の年齢にしたら梨香子ぐらいの年齢の方が魅力的に映るらしい。
敏明はまだまだ若造の蒼士の方が分不相応と言いたかったらしい。
酔っている敏明は自分が言い間違ったことに気付いていない様子だ。
一瞬驚いた速水は直ぐに気を取り直してクスクスと笑い出した。
銀縁の眼鏡を徐に直して返事をする。

「ええ、そうですね。いい女です彼女は。まだまだ青い蒼士くんでは手に負えないでしょう」

「はあ!?」

「青いよな蒼士は」

「青いですね」

敏明と速水は結託したように目を合わせニヤリと笑い合う。
そりゃあ二人にしてみればまだまだ若造と言われても仕方がないが、これでも十分大人なつもりなのだが?と、蒼士は憮然と二人を睨んだ。

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