このお見合い、謹んでお断り申し上げます~旦那様はエリート御曹司~

そんなねだるような瞳で見たって無駄だ。

急に方向転換したように、無理難題を要求してくる。さすが俺様御曹司。


「一緒に作る?!どうして私が榛名さんとそんな“新婚さん”みたいなことを…」

「“新婚”だろう?」

「付き合ってもいませんよ!!」


この男の脳内では、すでにお見合いが成立したことになっているのだろうか。花畑にも程がある。

しかし、次の瞬間。

ふっ、とまつ毛を伏せた彼は、ぼそり、とトドメの一言を放ったのだ。


「もしこの交渉を受け入れるなら、“見合いをすっぽかしたことはチャラにしてやる”。」

「っ!!」


その件を持ち出すなんて卑怯だろう。チャラにしてやる、なんて言われたら、断れるはずがない。

私は、最後の抵抗をするように口を開く。


「知っているとは思いますが、私、すごく貧乏ですよ?料理を作るも何も、もやししか家にありませんし。」

「金のことなら心配するな。肉でも魚でも、食材は俺が用意する。食べたいものを言え。」

(!)


“肉”

彼は、そのワードに私が反応したのを見逃さなかったらしい。

ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべた御曹司は、すっ、と頬杖をついて低く続けた。


「…決まりだな。今夜の予定は空けておけ。」


綺麗に平らげたカップラーメンの容器を片手に立ち上がる彼。

こうして、一ヶ月ぶりの肉に惹かれた私は、まんまと彼の思惑通りに頷いてしまったのだった。

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