守りたいから隣にいろ〜幸せな命令〜
「……ッ……ああッ!!」
叫び声を上げ、秋葉は飛び起きる。見開かれた目からは涙がこぼれ、荒い呼吸が部屋に響いた。
時計は真夜中を指したところだ。誰もが寝静まったこの家で、秋葉の苦しげな呼吸がしばらく響く。
秋葉は過去のことを夢に見ていた。日本にいた頃、今の自分ができあがった時のことを……。
「落ち着かなきゃ……落ち着かないと……」
秋葉はベッドから抜け出し、暗い廊下を歩いてリビングへと向かう。リビングも電気が消され、真っ暗だった。
その暗闇の中から、のそのそと大きな生き物が姿を見せる。スイスの山岳地方で重い荷車を引くのに活躍していたバーニーズ・マウンテン・ドッグのリヒトだ。
「リヒト、起こしちゃってごめん。ちょっと怖い夢を見たの……」
リヒトを撫でていると、少しずつ秋葉の恐怖は収まっていく。少し落ち着いたところで秋葉はリビングの電気をつけ、ホットミルクを作ることにした。