偽装恋人などごめんです!
「河東谷さんは、誠実な方だとお見受けしました。それで俺は思ったんです。絶対に、ぜーったいに香乃のことを好きにならないというのならば、あなたの偽装恋人にしておいた方が、余計な男が寄ってこないのではないかと」

「そんなこと言ってぇ。寂しくなったら私浮気しちゃうよ」

「じゃあ、結婚するか? ついてきてくれるならそれでもいい」

「それは、……ちょっと」

香乃は、なんだかんだと今の役職には未練があるらしい。

そんなふたりを前にして、俺は真顔のまま考える。
これは……俺にとってもチャンスじゃないか? 
正直、香乃は綺麗だと思うが、女性としてタイプじゃない。なんだろう、言い方は悪いが、責任感が無く頭が悪そうなところが完全に対象外だ。

「香乃ちゃん。もし引き受けてくれるなら、彼氏さんに会いに行く旅費を報酬として渡してもいい。遠距離恋愛に一番必要なものだろう?」

「ほんと?」

香乃は直ぐに飛びついてきた。考えなしで、目先の利益に飛びつくところは昔から変わっていない。五歳も下の野乃の方が、余程しっかりしていた気がする。

そしておそらく、この彼氏は香乃のこの性質をよく分かっている。
ひとりにしておいたら危ない。だが、今の状態ならついてきてもくれそうにない。
そこに降ってわいた俺からの偽装恋人の提案。もちろん俺と香乃の間に恋愛感情が生まれたら元も子もない話だが、そこは賭けだったのだろう。

「えー。じゃあ、引き受けようかなぁ。……本当にいいのね、啓太」

ちらり、と最後に恋人を見つめ、あなたに会うためにやるのよ、と目力でアピールする。
そのあたりはすごいな、と素直に感心する。
きっと上手に偽装恋人を演じてくれることだろう。
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