若奥さまと、秘密のダーリン +ep2(7/26)
サービスマンとしての作業中、矢神は観葉植物のように存在を隠し空気になりきった。
といっても出入りの作業員に注意を向ける従業員はほとんどいない。帽子を目深に被り眼鏡をかけただけなのに、笑えるほど女性は寄ってこなかった。

今の立場になって、スーツを着てあらためて当時のオフィスに仕事で出向いた時、女性従業員たちの自分を見る目の輝きの違いに軽蔑を覚えたほどである。

そのなかで、アルバイトで来ていた向葵だけは違っていた。

彼女は作業員に扮した矢神にももちろん、他の誰にでも平等に明るい笑顔を向けた。
スマートホンに気を取られている様子もなく仕事ぶりも真面目だったし、いつの間にか高齢の掃除婦と仲良くなっていて薄暗いゴミ捨て場で手伝いながら楽しそうに話をしているのを見かけた時は、この娘が入社試験を受けに来たら必ず採用しようと心に決めたものである。

半年後、矢神は警備会社に派遣された。
そこでも偶然彼女を見かけた。
残業の実態を把握するべく夜のオフィス内を歩いていたある日、彼女の噂話を耳にした。
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