バッドジンクス×シュガーラバー
そういえば……私が貧血を起こしてしまったあの日、久浦部長に医務室まで運んでもらいながら聞いた思わせぶりな言葉の意図も、結局わからないままだ。



『いや? むしろこれは、役得だ』

『なんで構うのかって……そんなの、おまえに触りたいからに決まってんだろ』



言われたセリフや表情をリアルに思い出してしまい、今度こそ間違いなく顔が熱くなる。

どうして久浦部長は、私にあんなことを言うのだろう。

導き出しそうになったおこがましすぎる理由に、思わずかぶりを振る。

……まさか、そんなはずない。

あの久浦部長が、私を……なんて。そんなたいそうなこと、あるわけがない。

久浦部長は、若くしてその役職につくほど優秀で、ルックスも素敵で、ちょっと厳しいけど優しくて──私なんかとは比べものにならないほど価値のある、遠い人だ。

……釣り合うはずが、ないでしょう?

自問するように胸の中でつぶやいた瞬間、ピタリとその場で足を止める。

そして私は踵を返し、もときた道を戻り始めた。

ダメだ。今の自分は、なんだか余計なことばかり考えてしまう。

気分転換に、飲み物でも買っていこう。私の大好きな、あのミルクティー。

自動販売機は、先ほどあとにしたオフィスの出入口を通り過ぎて角を曲がった突き当たりにある。

つい1分ほど前に自分が出たばかりのドアの前を通り、そのまま廊下を進んだ私は──……。



「……好きです、久浦部長」
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