バッドジンクス×シュガーラバー
角を曲がりかけた瞬間聞こえた声と目に飛び込んだ光景に、自分でも驚くくらいの素早さで身を翻していた。

い、今のは……?

姿を隠すよう壁に背をつけながら、胸もとで両手をきつく握りしめる。

たった今、私が見てしまったのは──まさに自分が目指していた自動販売機のすぐそばで、若い女性が久浦部長のたくましい背中に抱きついているシーンだった。

同時に耳に届いたセリフも総合して判断するに、どう考えても愛の告白真っ只中の現場だ。

ドクドクと、心臓が嫌に脈打っている。

相手の女性には見覚えがあった。たしか、広告販促部の女性社員だ。

とても綺麗な人で、肩甲骨あたりまである長い黒髪をなびかせながらいじらしくすがりつく様子は、一瞬目にしただけでもずいぶんと絵になる光景だった。

……そう、まさに、お似合いのふたりだったのだ。

そんなことを考える自分が、無性にみじめで胸が苦しい。

しかも私は、自分のその思考に心底傷ついてもいた。

なぜ、なんて、考えたくもない。

ただ今は、久浦部長がなんと返すのかだけが気になって──悪趣味だとはわかっていながら、息を殺して壁の向こうに耳をすませた。
< 144 / 241 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop