バッドジンクス×シュガーラバー
「……西(にし)さん」



久浦部長が、静かに相手の女性の名前を呼んだ。

その優しい声音に、また心臓が騒ぐ。けれども続いた言葉は、女性を気遣いつつも窘めるような響きを持っていた。



「申し訳ないが、この手を離してもらえるか?」

「っあ、す、すみません」



西さんが慌てて動く気配と音がして、私は人知れず息を呑む。

ふたりの間にさっきまでより距離が開いたのか、久浦部長が再度話し出す。



「ありがとう。きみの気持ちは、うれしい」



それを聞いた直後、胸の前で組んだ両手にまた力がこもったけれど、久浦部長の声が「でも」とすぐに続いた。



「すまない。俺は、その気持ちに応えられない」



ドクドクと耳の内側で激しく暴れる心音をくぐり抜け、たしかにそう聞こえた。

久浦部長……あの綺麗な人を、振った?

思わず壁の向こうを振り返ってしまいそうになるのを、なんとかこらえる。



「……どうしてですか? 久浦部長、今は恋人いらっしゃらないんですよね?」

「よく知ってるな」



食い下がる西さんへ、部長が苦笑混じりにつぶやく。

そして、続けた。



「恋人はいないが、心に決めた相手がいる。少なくとも今は、その相手としか恋愛する気がないんだ。だから俺は、きみの気持ちを知ったところでどうにもできない」
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