バッドジンクス×シュガーラバー
「ああ。必死でエサをちらつかせてアピールして、ようやく懐に入ってきてくれたと思っても……気づけばまた、そっぽを向かれる」



姿は見えないはずなのに、部長がふっと笑みをこぼしているのが目に浮かぶ。



「扱いが難しくて、一筋縄ではいかない。だけどどうにも危なっかしいから、つい構いたくなるんだ」



ちょっとだけおどけるように、“心に決めた相手”のことを話す久浦部長の声音は──とびきり甘く、いとおしさに満ちていて。

……もう、ダメだ。

これ以上聞いていられなくなってしまった私は、音もなくその場から逃げた。

足早に廊下を進みながら、頭の中では先ほど聞いた久浦部長のセリフがグルグルと回っている。

あの久浦部長が、あれほど優しい声で思い出す女性。

きっと、表情だって柔らかなものを浮かべていたに違いない。

一体、誰なんだろう。あんなに美人な西さんにもなびくことなく、久浦部長が“恋愛したい”ひと。

少なくとも、私みたいに地味でちんちくりんな女じゃなくて……外見も中身もパーフェクトな、とても綺麗な女性なんだろうな。

考えながら涙が浮かびそうになっている自分には、今は全力で気づかないフリをする。
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