バッドジンクス×シュガーラバー
『うちの実家は、静岡で約150年続くお茶屋で……深蒸し茶や玉露といった緑茶がメインではあるが、主力商品として和紅茶も取り扱っている。あとは、オリジナルの茶菓子を出す甘味処も店舗に併設していたりな』



ここに来るまでの車中や昼食をとったサービスエリアで、小糸にはあらかた実家の説明を済ませている。

こちらの話に呆けた顔で相づちを打つ彼女は、なかなか愉快で無防備でかわいらしかった。



『俺が言うのもなんだが、品質は保証する。今の社長は俺のふたつ年下の弟で、日本にも数少ない茶師十段の技術を持ってるからな』

『弟さん、ですか?』



箸ですくい上げた蕎麦を口に運びかけていた手を止めて、小糸が訊ねる。

俺は天丼のえび天にがぶりと噛みつき、咀嚼しながらコクリとうなずいた。



『ああ。俺がまだ小学校だった頃、先代の祖父から家督を継ぐ直前に父が事故で亡くなってな。その後社長には叔父がなったんだが、去年弟に代変わりした。叔父といっても俺たちは父が四十過ぎてからの子どもだから、3歳年下の叔父ももう七十代なんだ』

『そう……なんですか』



さらりと重い話を混じえてしまったせいか、若干堅い表情で小糸がつぶやく。

それからちまちま蕎麦をすすっていた彼女に、丼の半分ほどを食べ終えた俺はまた話しかけた。



『何か、言いたげな顔をしてるな。気になることがあるなら遠慮しないで言ってみろ』

『え』



驚いたように顔を上げた小糸と、視線が交わる。

一瞬気まずそうに目を泳がせて、それから彼女が観念したように口を開いた。
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