バッドジンクス×シュガーラバー
「……せっかく自分の部下が示してくれた好意を、わざわざ否定することはないだろう」



しばらく無言だった稔のそんな言葉が聞こえ、俺は思わず顔を上げる。

いつもの険しい表情を浮かべることもなく、ただ静かな表情をした弟がそこにはいた。



「小糸さんにとって……兄貴は、いい上司なんだな」



まるで独り言のように、ポツリと漏らす。

言葉は発しなくとも、横にいる小糸がブンブンと首を縦に振っていて。

そんな小糸がいとしいやら、稔の真意がわからず戸惑うやら。俺はどうリアクションをとっていいかわからず、おそらく困った顔をして固まっていた。

こちらの困惑に気づいているのかは不明だが、そこでふっと、稔が俺から視線を逸らす。



「まあ……そんなふうに部下に慕われるのは、すごいことなんじゃないか」

「え」



ボソボソと聞き取りにくいつぶやきではあったけれど、たしかに耳に届いた。

思わず目を丸くした俺の前で、バツが悪そうな表情をしている稔。

そのとき図ったようなタイミングでどこからかバイブレーションの音が聞こえ、稔がすっとその場に立ち上がる。



「……申し訳ないが、電話だ。少し席を外す」



言うが早いか、こちらと視線を合わすことなくさっさと部屋から立ち去った。

閉まった襖の向こうで、足音が遠ざかる。しばし沈黙があたりを包む中、「ふふっ」と笑みをこぼしたのは菜乃花だ。



「ごめんなさいね、ふたりとも。あの人、素直じゃなくて」



そう言って彼女は、俺と目を合わせながらふわりと微笑む。
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