バッドジンクス×シュガーラバー
「そうですね、昔からよく言われます。私は兄ほど目立つタイプではありませんでしたが」

「ああ、久浦社長の方が、人当たり良さそうな雰囲気ありますよねぇ」

「聞こえてるぞ」



ふたりの後ろを歩く久浦部長が、すかさず不機嫌そうに声を上げる。

稔さんと一緒に来ていた男性も、久浦部長とは旧知の仲だったようだ。部長と並んで歩きながら、慣れた様子で苦笑している。

そうこうしているうち、エレベーターホールへはあっという間にたどり着いた。



「本日は突然の訪問にもかかわらず、ご対応いただき感謝いたします。今後とも何卒よろしくお願いいたします」

「いえいえ、こちらこそ……【和紅茶のマフィン】に限らず、今後別の機会でもお力添えいただければと思います」

「……久浦社長。このたびのご協力、本当に感謝いたします」



牧野さんだけでなく、久浦部長もかしこまった口調で礼を述べている。

私も口を開こうとしたけれど、それより先に稔さんから話しかけてくれた。



「小糸さん。なかなか難しいでしょうが、またぜひ、当店へ遊びにいらしてください。妻もよろこびますので」



久浦部長より少しだけタレた目が、私を見て柔らかく細められる。

たとえ社交辞令だとしても、うれしかった。こちらも思わず笑みを浮かべる。
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