バッドジンクス×シュガーラバー
「あれ、向こうにいるの久浦部長だわ」

「ん? あ、ほんとだ」



応えたのは牧野さんだ。

その名前に反応し、反射的にふたりの視線を追った。

こんなに暑くてぐったりしてしまいそうな中でも、しゃんと背筋を伸ばした立ち姿。清潔感のある真っ白なシャツ。ネイビーのスラックス。

同じ横断歩道の、道路を挟んだ向こう側……赤信号で立ち止まっている数名の人々の中に、見慣れた背の高い人物が立っていた。

……ああ、ダメだ。

無意識に、ブラウスの胸もとをキュッと握る。

この1ヶ月、ずっと私は、あの人の前で何事もなかったように振舞ってきた。

不自然に目を逸らすことも、不自然に会話を切り上げることも堪えて──本当に、普通の上司と部下の距離に徹しようとした。

……なのに。

もうこの恋情は捨ててしまわなければと、どれだけ言い聞かせても……こうして姿を見てしまうと、未だ私の胸は簡単に高鳴ってしまう。

我ながら、本当に往生際が悪い。久浦部長だって、私の前ではもう上司の顔しか見せないというのに。
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