バッドジンクス×シュガーラバー
「な……っ『なんだ』って、『なんだ』じゃないですよ!! ていうかそんな、う、動いちゃ……っ」

「いや、大丈夫だ。車には直接ぶつかってないし」

「えぇ?! だっ、だって、血がこんなに……!」



言いながら、赤く染まった白いシャツを慌てて見た。

けれども久浦部長は、相変わらず逆さまの体勢で私と目を合わせながら淡々と言葉を紡ぐ。



「これは、トマトジュースだな」

「……へっ?」

「トマトジュースだ。さっき取引先でもらったんだが、車を躱して地面に転がったときに瓶が割れたらしい」



おかげでトマト臭い、なんて顔をしかめる久浦部長を呆然と眺め、その状態のまま視線をずらす。

血じゃなくて、トマトジュース……?

言われてよく見てみれば、たしかにそれはさらさらした液体ではなく少しドロっとしていて、小さな固形物らしきものも混ざっている。

何より、辺りにただようこの香りは……。



「……トマトですね」

「だろ?」

「いや、『だろ?』じゃないですって……びっくりさせないでくださいよ、ホント!!」



そう言って割り込んできた声の持ち主は、呆れ顔の牧野さんだ。

牧野さんは私の隣にしゃがみ込むと、ペチペチと容赦なく久浦部長の右頬を叩く。
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