バッドジンクス×シュガーラバー
土日休みの企業に勤める社会人ならば、誰もがどことなく浮き足立つ金曜の夜。
私はつい先日自分の身に起きたありえない出来事を、とあるお店の片隅で友人に打ち明けていた。
「キス……された? 久浦部長に?」
テーブルを挟んだ向かいの席で驚いた声を上げるのは、今日も今日とて素晴らしい美女っぷりの侑子である。
その視線から逃れるように、目を泳がせながらこくりとうなずく。
リーズナブルで美味しいカジュアルフレンチが堪能できるこのビストロは、私と侑子の行きつけのお店だ。
以前からの約束で、今夜は仕事終わりにディナーを楽しもうと彼女とふたりやって来ていた。
そこで私はついに、ここ数日誰にも言えず胸に秘めていた大事件を、親友にだけは話す決意を固めたのだ。
落ちつかない様子でワインのグラスを手もとで弄びながら、またボソボソと口を開く。
「まあ……たぶんアレは、部長にとっては実験みたいなものだったんだろうけどさ……そ、それでね、びっくりなんだけど。私とキ……なんて、したのに、久浦部長は、何ともなかったの」
「え? 何ともって……待って、そのキスって、いつの話?」
さらに意外そうな声音で訊ねられ、視線は向けられないまま「今週の月曜日だよ」と答えた。
ここで侑子が言葉を失い、私たちの間には店内の喧騒がやけに耳につく沈黙が流れる。