バッドジンクス×シュガーラバー
『昔から……私とかかわった男の人はみんな、当日か翌日に何かしらの不幸な目に遭うんです』



馬鹿馬鹿しい話だと一蹴するのもはばかれるような、あまりにも深刻な表情で彼女がそんなことを話すものだから──俺もいたって真面目に、応えた。



『わかった。そのジンクス、俺が変えてやる』



驚く彼女に手を伸ばしてメガネを奪うと、もう一方の手で顎を掴み、視線を合わせる。



『あのっ部長、何を──……ッ』



そうして困惑する小糸の抗議の声を塞ぐように、唇を重ねた。

わずか数秒で顔を離し確認した彼女は、呆然と目を開きながら俺のことを見つめていて。

その無防備な表情に、思わず頬が緩む。



『──これで、明日俺がどうなるか、楽しみだな』



我ながら底意地の悪そうな声音でささやきながら、メガネを返してやる。

絶句して固まる小糸をそのままに、俺はあっさりとミーティングルームをあとにした。

後ろ手にドアを閉めて1歩を踏み出した瞬間、室内からドサリという音が聞こえて、彼女が持っていたバッグを床に落としたのだろうかと他人事のように推測する。

……もしも小糸の“ジンクス”とやらが本当で、明日の自分が何事もなく無事であったなら。

彼女にとって俺は、異性の中でも特別な存在であると、必然的に思い知らすことができる。

ひそかにそう考えながら廊下を歩く自分は、きっと、さぞかし悪どい表情を浮かべているのだろう。

自覚しつつも高揚する気持ちは抑えきれず、そして、迎えた翌日。

はたしてその企みは、現実のものとなったのだ。
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