バッドジンクス×シュガーラバー
右手にあるグラスを口もとに運びながら、視線は少し離れた席に座るひとりの部下を無意識に見る。
そんな俺へ、左隣の人物が不満げな声を上げた。
「部長~聞いてます? 俺今、一世一代の大事な相談中なんですけど!」
「ああ、聞いてる聞いてる」
コトリとテーブルにグラスを置きながら答えるが、内心では『その一世一代の大事な相談を会社の飲み会中にするなよ』とツッコんでいる。
とはいえ、日頃よく働いてくれている部下からの相談を無下にはできない。
俺は適度に相づちを打ちながら、交際中の彼女に近々プロポーズをするらしい石田の話に耳を傾けた。
4月も終わりに差し掛かろうという金曜の夜。
天ぷらがメインの和食が楽しめるこの居酒屋で、コズミック・マインド本社のデイリーフーズ部とマーケティング部合同の歓迎会が行われている。
週末ということもあり、店内は賑やかな活気に満ちていた。我々が貸し切っている掘りごたつ式の個室も、社員たちの明るい声であふれている。
この歓迎会の主役のひとりとも言うべき小糸憂依は、俺から2メートル分ほど距離のある向かい側に、同じ部署の浅村えみりと隣り合って座っていた。
両手でグラスを持ちながら自分より背の高い浅村を見上げ、時折笑みをこぼしつつ何やら楽しげに会話している。
その頬はこちらから見てもわかるくらいに赤みがさしていて、すでにそれなりの量のアルコールを摂取しているのだと想像できた。