バッドジンクス×シュガーラバー
「吉永さん? ああ、ご苦労さま」



若干驚きつつも、向けられる整った真顔にうなずきながら応えた。

目の前にいるマーケティング部の吉永侑子とは、今まで仕事で何度か話したことがある。今週の頭にも打ち合わせで顔を合わせたばかりだ。

が、こうしてわざわざ呼び止められたことは意外で、きっと今の自分の表情にもそれは現れてしまっているはずだ。

顔を見た誰もが「美人だ」と口を揃えるであろう美しい容姿を持つ吉永さんは、けれども愛想も隙もない性格らしく、彼女をなんとか口説き落とそうと果敢に挑んだ社内の何人かの男が全員こっぴどく振られたという話を耳にしたことがある。

男のみならず、そもそも人間嫌いなのではないか、なんて話も聞いたことがあるくらい、周りの人間とは必要最低限のかかわりしか持たないそうだが──すれ違いざまの挨拶ではなく、まるで引き止めるように目の前に立って声をかけてきた吉永さんを、思わず訝しげに見つめてしまう。

吉永さんは俺のそんな眼差しをものともせず、あくまで淡々と口を開いた。



「久浦部長、少しお話ししたいことがあるんですが。付き合っていただけます?」



言いながら彼女が浮かべた微笑にどこか冷たいものを感じるが、断る理由はない。

俺はうなずいて、踵を返した彼女のあとを追いかけたのだった。
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