売れ残りですが結婚してください
「あった」

お目当の作品集を手に取りながら前から気になっていた本はないかと視線は棚の背表紙に一点集中。

「えーっと……えっーと……」

美術系の書籍には翠しかいなかったこともあり腰を曲げながら真剣な表情で本を探していた。

その時だった。

「あっ!」

「すみません。大丈夫ですか?」

翠が本探しに夢中になっていると誰かがぶつかってしまった。

謝ったのは翠ではなく相手の方だった。

「い、いえ……私は大丈夫です。すみません。本探しに夢中になっていたものですから」

咄嗟に相手の人との距離を取りながらペコペコと頭を下げた。

距離を取った理由は、その声が男性だったからだ。

歳は20代から30代前半。

落ち着きがあり優しさを感じる甘い声に翠はドキッとしてしまい、その反動で距離を取ったのだ。

翠の視線は足元を見ていた。

紺色の清潔感のあるスニーカーだった。

「いえ、僕もよそ見していたので……」

男性の声にまたもドキッとした。

翠は自分自身の反応に驚き本探しは諦めその場を離れようとした。

だが、ふと視線を数十センチ上にあげた時、彼の手に持っていた本に動きが止まった。

(同じ本持ってる)
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