売れ残りですが結婚してください
翠にはかなり驚いた。

雑誌ならともかく、こんな専門的というかマニアックな本を手に持ってる人が自分以外にいるなんて思いもしなかったからだ。

それは相手の男性も同じだった。

「あっ!」

男性の声に、翠は咄嗟に顔を上げた。

目の前にいた男性は逆三角形のシャープな輪郭にくっきりとした目と長いまつげ、口角の上がった厚すぎず薄すぎないバランスのとれた唇。少し癖のある流れのある髪型。

まさに二度見してしまうほどのイケメンだった。

「お好きなんですか?……光琳」

声をかけたのは男性の方だった。

「は、はい」

「こんな偶然てあるんですね」

男性は嬉しそうに口元を緩ませた。

「そうですね」

翠も同じ趣味を持つ同世代の男性がいることを素直に嬉しく思った。

ただ純粋に……。

「真剣に本を探していたみたいですが……」

「光琳の図案で今でいうラフ画のようなものをどこかで見たことがあって……」

すると男性は思い当たる本があったのかウンウンと頷く。

「その僕、知ってますよ」

男性の言葉に翠は飛びつく。

「え?どこに売ってるんですか?」

男性は翠のキラキラした目を見て微笑んだ。

「教えてあげる代わりに……ちょっと僕に付き合ってもらえますか?」
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