売れ残りですが結婚してください
「すみません。私彼女と同じ学芸員の石神と言います。たまたま帰り道が一緒だったんで」

「そうなんですか。僕はシュウと言います」

シュウは簡単な自己紹介にとどめた。

だが石神はシュウの翠を見る目に不安を感じた。

翠は全くわかっていないだろうが石神にはわかってしまった。

シュウは翠に好意を持ってるということを……。

翠がこの先どう気持ちが変わるかは不明だが、もしものことがあったらかなりまずいのでは?

「じゃあ、私はここで……」

シュウの方を見て会釈して一歩前へ踏み出したのだが、何かを思い出したかのようにその脚を引っ込め翠に近づいた。

「あっそうだ。翠ちゃん。あなたは結婚を控えてるんだからね程々にね」

こんなこと本当は言いたくなかった。

だけどシュウを牽制するためにこうするしかなかったのだ。

シュウがどんな顔をしているのか石神はわからなかったが、いうべきことは言った。

あとは翠次第だよという気持ちを込めて言った言葉だった。

翠は「大丈夫ですよ」と動揺するわけでもなく普段どうりのおっとりとした口調で答えた。
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