異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
あんこを練っていると額に汗が滲み、眠っていない影響で力が抜けそうになるが、そうも言っていられない。

最後は冷まさなければならないことを考えれば、どうしても早い時間に作り終える必要があった。

冬なのは幸いだ。冷たいところに置いておく置けばすぐに冷める。

そうして栗羊羹が出来上がる。一本だけ包丁を入れて切ってみる。たくさん詰まった栗の黄色が、赤味を帯びた濃い茶色をしている羊羹の中で存在を主張していてとても美しい。

――これなら上出来だよね。でも料理長のティラミスもきっと素晴らしい出来になっているはず。

ベルガモットは、グレイ公爵という後ろ盾のお蔭で料理長になったと揶揄されることもあるが、実力があればこそだとメグミは思っている。彼の作る料理は最高においしく、しかも見た目が、どこの芸術品かと思うほど整っていて美しかった。

――勝つ必要はないし、勝てるとも思わない。栗がほこっとして歯ごたえが有ると感じてもらえたら、それだけでもきっとすごく満たされる。

和菓子職人としては、ティラミスもおいしいけどこの栗羊羹もね、と思ってもらえれば十分だ。記憶に残り、他国でも和菓子のことが話題に出るなら、コンラートが力を入れている小豆栽培の後押しにもなる。
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