異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
そして夜会が始まった。

貴族のご令嬢たちのドレスは素晴らしい。他国から招かれてきた賓客たちの中には見たことのない珍しい衣装を纏っている人もいる。つまり、それだけ遠くから来ているということだ。

繋がっている大広間が三つ解放されて、オーケストラが曲を奏で続ける。

幾つもの丸いテーブルが用意されて、その上にレースのクロスが敷かれ、ここぞとばかりに手を尽くした料理が並べられている。

小皿にとってフォークやスプーンで好きなものを食べる立食形式だ。たくさんの人たちの間を給仕が魔法のような足取りで縫って歩き、片手の上に載せた盆に最高級の酒を注いだグラスを人々に手渡している。

華やかな夜会。メグミは厨房でドキドキしながら追加注文が来るのを待っていた。

しかし、誰も来ない。

――あれ? どうしてかな。一切れもなくならないなんてこと、あるのかしら。

それほど長い時間待っているわけではなかったが、気持ちがものすごく焦った。特に、ベルガモットのティラミスの追加が出てゆくのを見ていると。こうしてじっとしている自分があまりにも場違いに感じてしまう。
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