異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
大広間の隅には台座に載った大きな花瓶があり、豪華な花が大量に飾られている。その後ろに隠れながら、メインデザートのテーブルをそっと覗き見た。

ひと際大きな丸いテーブルには、中央に花が盛られ、周囲に菓子がたくさん置いてある。金箔の載ったティラミスが大皿に盛られ、隣に、幅に注意して切った栗羊羹が三列に並んで大きな長方形の皿の上に置かれている。どちらもずいぶんな量だ。

デザートのテーブルは他にもあって、そちらにも栗羊羹は配置されているが、デザートのメインテーブルはここだ。始まる前にセッティングを見に来ているから間違いはなく、このテーブルの様子で他の状態も分かるというものだ。

栗羊羹の周囲には、メグミがかなり凝った生菓子を添えたが、それらはすべてなくなっていた。しかし羊羹は残っている。

ティラミスはどんどん小皿に取られてなくなってゆくのに、誰も栗羊羹に手を出さない。珍しげに見るだけだ。

――初めてのものだから? 味を想像できなくて口に入れるのを用心してしまうのかな。誰か一人でも手に取ってくれたら。

気持ちがぎりぎりと追いつめられた。
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