異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
なんだかよく分からないが、仕事場でのメグミに対する敵対心が煽られると分かっていて、コンラートの意見に従ったということだろうか。

しかし、王城で働く者なら、国王には従うのが普通の対処だろう。

「大体、優遇と言われても、ベルガモットさんはいつも厳しかったじゃないですか。潰せと言ったのは後見のグレイ公爵でベルガモットさんは真っ向勝負だって言われました。お蔭で栗羊羹を出せました。抹茶パフェまでできたんですよ。お礼の気持ちしかないです」

むぅっと黙ってしまったベルガモットに対してメグミはどういう態度を取ればいいのか分からない。視線をふわふわとあちらこちらに飛ばした。

「感謝、か。そう思っていてくれるなら、私の気持ちも楽になる。……そうだ、いい機会だから、私のことを話しておこう」

ベルガモットは、自分は田舎の貧しい家の出だと話し始める。

年老いた両親と頭数の多い弟や妹のために、どうしても料理長になりたかった。だから何としてもグレイ公爵の後見が必要だったのだと言った。

料理長になればなったで、その後は郷里への仕送りのためや、思い通りに調理場を動かせる権威を捨てられなくて、この地位にしがみついてしまったのだと。

「料理人としての誇りを持っていても、自分の事情がグレイ公爵に逆らうのを許さなかった」

「……それではまるで、今度は逆らうと言っているみたいです」

ベルガモットは、それ以上何も言わず下を向いて静かに笑った。笑い顔を初めて見たように思えてメグミは驚く。
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