異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました

「ん？」

なにか奇妙な空気になっている。メグミが不思議そうにベルガモットの顔を見上げたとき、コンコンとノックの音がした。

「はいっ。どうぞ」

いきなりだったのでとても驚いたメグミは、ベルガモットの手を外して腰を上げた。そして振り返る。

がらりと戸が開いて顔を覗かせたのは、見たことのある若い侍従だった。

「メグミさんですね。ジリン公爵閣下がお呼びです。仕事の手が空いていれば、すぐに来てほしいそうです」

「分かりました」

彼女はベルガモットへ顔を向け直す。ベルガモットはいつもの表情の薄い淡白な様子に戻っていた。先ほどの奇妙な雰囲気は何だったのだろうと心の中で首を傾げながら、メグミは「申し訳ないのですが、行ってもよろしいですか」と尋ねた。

「構わない。話は終わった。公爵閣下のお呼びなのだから、すぐに行った方がいい」

「では失礼します」

ぺこりと一礼をして、メグミは第二調理場から出て行った。