消えないで、媚薬。



「そうだね、本気で女装してきたら参加OKだよ」




そう言って微笑んだら膝の上の手に小指だけ絡めてきた。
テーブルの下、皆からは見えてない。
「約束、な?」と水割りを飲みながら視線は前を向いたまま。
不覚にもドキッとしてしまった。




もうあの頃とは違う。
皆ちゃんと大人になってて、見た目もガラッと変わってる。
時田くん……手とかこんな大きかったの?
ゴツゴツしてて嫌でも異性なんだって意識してしまうよ。




よくふざけ合ってた頃の表情じゃない。
真っすぐ見つめられたら正直動けなかった。
触れてる小指だけが熱い。




さとみが戻って来たと同時に小指は離れた。
席を移動して他のメンバーとひと通り話して二次会の前でトイレに立つ。
携帯を確認したらやっぱり慶太からメールきてて。




(香帆さん……香帆さん……)って何回呼ぶのよ。
泣いてるスタンプも可愛い。
え?リアルタイムでもきてる。
(会いたいよ……)って。




どうしてかな?
他の誰かならウザく感じてしまうメールの嵐でも、慶太なら微笑ましく思える。
胸がキュンとなる。
こんなに欲してもらえるの初めてだから?
まさかの私が浮かれてる?




6つも年下の高校生に?
ドキドキしてる?
リアルタイムで同じ気持ちで居ることが嬉しくて堪らない?
本音としては……私も会いたい。
二次会、断わろうかな?
飲まないし。
ていうか、約束……律儀に守っちゃってる。




(早く寝なよ?おやすみ)




メールを打ち返したらすぐに返信がくる。
しかも立て続けに。




(え?香帆さん!やった!)
(今は大丈夫なの?)
(酔ってない?)
(真っすぐ歩けてる?)
(早く会いたいよ)
(会いに行きたい……)




ゲッ!文字打ち早っ!
合間合間にちゃんとスタンプも押してくるし。
恐るべし現役高校生。








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