消えないで、媚薬。



いつもスクーターだから防寒命だし化粧っ気ないし最悪だ〜!
でももう待たせてるから……と顔を上げたらすでに目の前に居て優しく頭を小突かれた。




「わっ…!」




「おい、来てんなら声かけてよ」




「わわっ、ごめん…」




つい見惚れてたなんて言えるはずがない。
同時に釣り合わない自分を嘆いていたことも。




「ハハハ、どこ行こっか?」




笑うと目尻が下がる。
変わらない笑顔だけど間違いなく今の方が数倍格好良い。
同窓会の時さえ見せなかった表情。
かなりリラックスしてる感じ。




人混みに紛れて歩き出す二人。
自然と外側を歩いてくれるし歩幅も合わせてくれてるし。
優しい横顔に何だかホッとして安心感に包まれる。




「少し歩いた先に美味しい和食屋があるんだ、そこで良い?」




「うん」




話が途切れないよう次々と話題を振ってくれて全く退屈しなかった。
自然と笑えてたし自分でもびっくりするくらい喋ってたと思う。




でもこの時まさか慶太とその同級生たちにバッチリ見られてるとは知らなかった。




「あれ、愛しのカホ先生じゃね?」
「わ、マジだ…男と一緒に居る!」
「ガーン……やっぱ彼氏持ちだったんだ…」




後園バスに乗ってる時、停留所でたまに慶太とその同級生たちが何だか私のファンだと言って遠くから手を振ってきたりする時があって、保護者の手前キラースマイルで会釈していた。




「誰だよ……アイツ」




慶太から見ればとても仲良さげに見えたそうで「うわ〜慶太怒ってる〜」と言われるほど顔が険しくなっていたとか。
そのまま追跡されるハメになったこととは露知らず。








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