消えないで、媚薬。



その時インターホンが鳴り響いた。
セールス…?
今追い返す気力なんてない。
このまま無視しよう。
グラスに手を伸ばし水を飲もうとしたけど、握力まで奪われて持ったグラスを落としてしまった。




当然、ガシャン…!と音をたてて割れたグラス。
私、何やってんのよ……




「香帆さん?凄い音したけど大丈夫?何か割れた!?」




ドアの向こうからノックと共に慶太の声が聞こえてきた。
ボーッとドアを見つめることしか出来ない私。




え……来ちゃったの?
ダメだ……今日は絶対会えない。
でも、声も出ない。
「帰って」が言えないなんて………
あ、そうだ……携帯。
仕方なく重い身体を引きずり部屋に置いてある携帯に手を伸ばす。




机の上にある買い置きしてたマスクもつけた。
ゆっくりメッセージを打とうとするけど視界がグラつく。
再びノックされて
「ねぇ、返事して?大丈夫なの!?」




ガチャッとドアノブが回り、意識朦朧で帰って来たから鍵をかけてなかったことに気が付いた。
ヤバイ、入って来られる…!
とっさに身体が動いて玄関に向かって足を進める。




「入るよ?」と声がしてドアが開いてしまった。
心配そうに中を覗く慶太と目が合ったらやっぱり気が緩んじゃって……
当然のごとく抱きしめられた私は抵抗すら出来ない。




割れたグラスを見て
「俺が片付けるよ」と言ってくれた。
痛む喉を押さえながら事情を話す。




「本当だ……凄い熱」




「移ると…いけないから……帰っ…て」




熱で呼吸も乱れる。
その場で慶太の腕の中で倒れたこと、
抱きかかえられベットまで運んでくれたことは意識が飛んで把握出来てなかった。







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