消えないで、媚薬。



夕方。
園児たちを送り出した後の職員室で。
先輩たちのニヤニヤ攻撃が止まらない。
ヤバい、どうしよう。
本気で無視出来ない。
報告書が一向に進まない。




視線が痛い………




「合コン誘っても一向に来てくれなかった理由はソレだったんだね〜」




「あら?高野先生、恋人いらしたの?」




「え、園長先生まで……」




うちの園のボス(園長)は女性だ。
常に厳しいけどこういった話は割とフランクに話してくれる。
ある意味風通しの良い職場、かな。
ニュースでたまに見るブラックな環境ではなくそこは本当に恵まれていると思う。




「ユカ先生こそこの前付き合い出した彼はどうしたんですか?」と反撃してみる。




「あ、ダメダメ。先月別れた」




「は、早い……」




急にデスク周りに先輩保育士たちが群がってくる。
嫌な予感しかしない。




「カホ先生は彼氏とラブラブだから良いよねぇ〜」
「今日見ちゃったんだ〜」
「かなりのキスマークだったよね?」




その場に居なかった保育士たちも
「え?え?どういうこと!?」と集まり出す始末。
変な汗がタラリと流れ落ちる。
園長まで参加してるし。




「あの……これは一体どういう状況でしょうか?」




ジーッと見られて居心地悪い。
さっさと報告書打ち込んでパソコンを閉じた。
見渡す限り先輩たちの目、目、目…!!




「一応確認だけど、彼氏って河本さんじゃないよね?」




「え?まさか……そんなことある訳ないじゃないですか」




「あ〜やっぱり河本さん、カホ先生のこと好きそうですもんね」
「え?職場恋愛憧れる〜」
「河本さんが彼氏ってアリだな」




何でここで河本さんが出てくるかな。
余計事態がややこしくなってる。
園長も「職場恋愛はダメじゃないけど付き合ったんなら一応報告してね」って言ってくるし。




ガラッと職員室に入ってきたのはタイミング良すぎる河本さん。
バスのキーを戻しに来た様子。
皆が一斉に河本さんを見るから固まっちゃってますよ。





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