お前は、俺のもの。


「私の連れが、何かご迷惑をかけましたか?」

目の前が翳り、男性は「あ?」と言いながら後ろへ振り向く。私も同じ方へ顔を向ける。
ライトグレーのスーツに見覚えがあることに、どこかホッとした気持ちになり、私だけに見える頭に生えた二本のツノが今は愛しく思えた。
美しく笑う、鬼。
安心したいのに、彼の見目麗しい全身から発する超不機嫌オーラに当てられた私の体は、ピシッと音を立てて凍った。

鬼課長の後ろにはオーナーの佐藤さんがいるが、彼は構わず逆三角形の目を男性に注いでいた。

「あ?アンタ、なんだよ」
男性も鬼に睨む。
「私の連れなので、その手を離していただけませんか」
鬼に対し、「チッ」と大げさに舌打ちをしてワインを飲み干した。

「大人しそうだから一晩遊べるかと思ったが、男連れかよ」
と、酔っているのか悪びれもなくポロリと本音らしい言葉が出た。
私の肩がビクリと揺れたと同時に、鬼が動いた。

グイッ。

鬼の長い腕が伸びて、男性の胸ぐらを力一杯掴みあげる。その拍子に、男性の持つグラスが落ちて、「パリンッ」と音を立てて床に割れ散った。
音に気づいた周りの人々が一斉にこちらに注目した。
オーナーの佐藤さんがスッと私たちの前へ現れ、
「しばらく動かないように願います。お怪我はありませんか」
と言い、店員さんたちにすぐに片付けるように指示を出す。そして、佐藤さんは鬼の男性の掴む手に自分の手を重ねた。

「せっかくのパーティーです。ここは私に免じて預からせて貰えませんか」

佐藤さんの穏やかな口調に、鬼の手が相手の胸元から離れた。男性は苦しかったのだろう、掴まれた部分に手をやり、息苦しそうに呼吸をしていた。
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