お前は、俺のもの。
クローゼットから黒いボストンバッグを取り出す。そして、さっきの食卓の光景を思い出した。
父がいて、母がいて、長男がいて、長女がいて。
きっとあれが昔に両親が言っていた、理想の家族像だったのだろう。両親は男の子のいる家庭を羨ましく見ていたことがあった。父は休日になると私たち姉妹にキャッチボールを教えていた。春奈は小学生の時に「お兄ちゃんが欲しい」と七夕の短冊に書いていた。
いつの間にか、服を畳む手が止まっていた。
「ここが凪の部屋か」
と、低い声がした。
ハッと見上げると、部屋の入口で鬼課長が私の部屋を見回している。
「ちょっ、なに勝手に入ってくるんですか」
と、片付けもできていない部屋で私は困惑する。
「そんな言い方ないだろ。これから俺の部屋を見るのに」
と、言い返されてしまった。
私が三日間の着替えなどを用意している間、鬼課長は部屋の壁際に積み上げられたダイエットグッズを興味深そうにしげしげと見つめていた。
この六畳の部屋が、鬼課長がいるだけで狭く感じる。
「凪、何故夕食を食わなかった?みんなが心配していた」
「起きたばかりで、食欲がなかっただけです」
──本当のことなんて、言えるわけがない。
鬼課長が私の頭を撫でる。
「悩みがあるなら、俺が聞く。大食いのお前が食べないのは、俺も心配だ」
と言って眉を下げて小さく笑うと、部屋から出ていった。