お前は、俺のもの。
「では、凪さんをお借りします。三日後の夜に送り届けます」
鬼課長は私の家族に頭を下げると、私を乗せて車を走らせた。
車中で先に口を開いたのは、鬼課長だった。
「お前の家族は楽しい。明るい家庭だと思った」
ポツリと呟いた彼の言葉に、私の奥底にある黒い何かがボコッと膨らんだ。
「そう、ですか。ただ騒がしいだけですよ。家の中はいつも誰かが喋っているし、テレビはいつもお笑い番組が流れているし。食事の時もいつもあんな感じです」
「俺はいいと思う。毎日あんな家族団欒の食卓があるなら。俺の家は小さい時から両親は働いているし、食事はたいてい兄弟三人で食うことが多かった。ここ数年、家族で食事の機会もない。だから、今日は新鮮で楽しかった」
私の家の食卓に憧れを持つ、鬼課長。
そうか。
交代すればいいのか。
「…じゃあ、このまま交代しましょう」
私の呟きに、鬼課長が「は?」と聞き返した。
「私、思い出したんです。両親は昔から男の子が欲しかったことを。私たちは二人姉妹だから、両親は男の子のいる家庭を羨ましがっていました」
「三人目は、考えなかったのか」
「母が言うには三人目は経済的に厳しくて断念したそうです」
「そうか…」
少し沈んだ、鬼課長の声。
私は運転する鬼課長の横顔を見た。
「だから今日は一ノ瀬課長と食事をした両親はすごく嬉しかったと思います。母なんて「唐揚げは面倒くさい」なんて言って、いつもは頼んでも作らないし、父もいつも黙って晩酌してるけど、笑ってビールを飲んでる顔なんて初めて見たし。春奈は昔の七夕の短冊に「兄が欲しい」なんて書いてたし。きっと一ノ瀬課長は満島家の夢を叶えてくれる人なんですよ」
「だから、俺がお前の家で毎日飯を食えばいいと?じゃあ、お前は?」
「両親の理想は、両親と長男と長女の四人家族です。ダイニングテーブルだって四人掛けでしょ。春奈だって一ノ瀬課長はイケメンだから、きっと兄になれば喜ぶに決まっている。私は必要ないんです」