お前は、俺のもの。


「唇を噛まれたくらいじゃ、キスのカウントには入らない」


私のボストンバッグを片手に、鬼課長はマンションの自動ドアの入口でフラフラと後ろを歩く私を振り向いて待っていた。

「だ、だって、唇ですよ?唇を噛んだんですから、唇が重なっているじゃないですかっ」
「あんなのは、ペットの犬や猫が飼い主の唇を舐めたり甘噛みするのと同じだ」
「いっ、一ノ瀬課長は犬や猫じゃないですけど!」
「当たり前だ。飼い主は俺で、ペットはお前」
「勝手にペットにしないでくださいっ」

人が出入りする場所で、大人気ない会話をする私たち。
鬼課長が自動ドア横のタッチパネルを指差す。
「俺の部屋は十二階だ。ドア解除の暗証番号を教えるから、ちゃんと見ていろ」
と言って、タッチパネルの数字をゆっくりと押していく。

──08…え?この番号は。

私の思い当たる数字に、鬼課長を見上げる。
彼も私へ顔を向け、逆三角形の瞳で見つめて、大きな手で私の頬をそっと撫でた。

「覚えやすいだろ」

──当たり前でしょ。その数字は、私の誕生日なんだから。
私は心臓をドクドクと脈を打つ速さに耐えられず、胸に手を置いた。
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