お前は、俺のもの。

「ごめんなさい、一ノ瀬……さん」
鬼課長の眉間のシワがぐっと深くなるが、ゆっくりと肩の力を抜いたようだ。
「別に、怒っているわけじゃない」
「はい。ごめんなさい」
「凪」
彼は、肩を竦めて俯く私へ腕を伸ばした。頭を軽く撫でる。

「会社では確かに俺は上司だけど、プライベートでは一人の男だ。それに凪より年下だから、気を遣う必要もない」
「年下…」
私は鬼課長へ顔を上げた。

そうだ。
先日、斉木課長と綾乃と一緒に帰った時に、斉木課長が言っていたのだ。
『 一ノ瀬くんはオレの大学の後輩でね…』と。
斉木課長は私と同じ年だ。

「一ノ瀬、さん。あの、年を聞いても?」
「二十八だ」

──二つ年下。
にしては、私より年上な感覚の落ち着きや冷静さがあるのは、彼の性質だろうか。

鬼課長が口をへの字に曲げる。
「なに、年のわりに老けてると思ってる?」
「いっ、いえっ。そうじゃなくて、私より大人な感じがしたから」
「やっぱり、老けてると思ってる」
と、目玉焼きを食べながら拗ねている。
少し重い空気が流れて、私はトーストを食べる鬼課長をチラリと見た。
彼は不機嫌そうだ。
この空気を何とかしなければ。

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