お前は、俺のもの。
鬼課長が言うには、桐谷さんは建設会社の社長をしていたそうだ。今は会社は息子と孫が継いで、自分は悠々自適な生活をしている。あのお店も仲間と共同経営しているという。
桐谷さんのことを話す鬼課長の表情は穏やかに見えた。私もまた桐谷さんのお店に行きたいと思った。
もうすぐお昼のせいか、どの飲食店も行列を作っている。順番が来るには時間がかかりそうだ。
お店をキョロキョロ見ていると、鬼課長がポケットからスマホを取り出して「一ノ瀬です」と返事をした。
着信があったらしい。彼は私に目配せしながら、人の少ない方へと歩いていった。
私はお店の壁へ移動して、スマホで星占いを見ながら時間を潰すことにした。
──意中の彼が急接近。ラッキーポイント、手料理。
手料理。
私は大きなため息を吐いた。
と、ハッと顔を上げてブルブルと頭を振る。
──意中の彼って、誰を思い浮かべた??
頭では否定しても、思い浮かぶのは鬼とのあんなことや、こんなこと。
そして、鮮明に記憶に残る、朝のキス。
──鬼課長の唇。
顔が熱い。頭から蒸気が上がっている気がする。
私は周りの目から避けるように俯き、紙袋の中を覗いた。
「凪?」
鬼課長の声ではない、誰かに呼ばれて顔を上げた。