お前は、俺のもの。
加瀬部長と別れた俺は、帰ろうとマンションへ車を走らせる。
彼の言い方は不器用だったが、勇気づけられた気がした。川添や小堺たちの凪に対しての動きは気になるが、俺と凪は自分たちのペースで関係を深めていければいいと思った。
俺には凪を手放す選択肢なんてなかった。
玄関のドアをそっと開けて入る。
掃除をしてくれたのだろう、綺麗に磨かれた廊下を歩いてリビングに行く。電気の灯り、片付けられた部屋、ケチャップの匂い。
「……ケチャップ?」
ダイニングテーブルの上の何かに視線がいく。近づいて、それを見た。薄く焼かれた卵の上にケチャップをかけた、オムライス。
すっかり冷めてしまったところは、きっと夕方くらいから作ったのだろう。見た感じ、ケチャップライスの上に卵焼きを乗せただけの、簡単なオムライスのようだ。
昨日、凪が泊まる支度をする為に部屋へ戻っている時に、妹の春奈が言っていたことを思い出した。
『もし、お姉ちゃんのご飯を食べる勇気があるなら、「ご飯つくって」と言ってみて。お姉ちゃん、本当に料理オンチだけど小学生レベルのオムライスは作れるはずだから』
凪たちが小学生の頃、両親は共働きだった。母の帰りが遅くて春奈が「お腹空いた」と凪を困らせた時に、凪が春奈のために苦労して作ったのがオムライスだった。
「初めて作ったオムライスはケチャップライスも卵焼きも焦げてて、とても苦いオムライスだった」と、彼女は懐かしそうに言った。
『でもね、お姉ちゃんのオムライスは作る度に進化したの。ふわとろのような高度なものは作れないけど、ケチャップの量を加減するようになったし、卵も焦がさないようになったの。もし作ってくれたら、食べてみて』
その春奈の言った「凪のオムライス」が、これだろう。