お前は、俺のもの。

「凪、少し話そうか」
「…はい」
鬼課長から切り出された言葉に、私は少し落ち着きを取り戻す。

「昼間は急に出かけて悪かった。俺は焦っていたと思う。頭を冷やそうと思ってジムへ行って体を動かしていた」

綾乃から電話で聞いていた話と一致する内容で、まだ見えない彼に対して頷く。

「偶然、加瀬部長に会って話をして、お前のことを考えていた。最初にお前を見かけてから、手に入れたいと思うまで、時間はかからなかった」

一度話が止まった時、暗闇に少し慣れてきた目で彼を見つめる。私の両端に手をついて、覆い被さるように彼の顔は私の真上にあった。瞳の輝きが濡れたように、ゆらりと揺れた。


「二年だ。お前を俺のものにしようと、二年かかった」

「…二年?」
そんなはず、ない。
私は首を横に振った。
「でも、その頃、川添さんとお付き合いありましたよね?」
「確かにお前を初めて見た時、俺と川添は形の上では「恋人」だった」
「形の上?」
意味がわからない言葉に、首を捻る。
「あいつとの関係は、とっくに終わっている。今は必要以上に接するつもりは無い」
「でも、この前見ました。会社の車で川添さんと一緒にいるところを。「FUFU」のお菓子を買いましたよね?」
「は?川添?会社の車で「FUFU」?」
鬼の低い、不機嫌な声がした。そして「あぁ」と思い出したように呟く。
「クラウンリゾートの副社長の手土産を買いに行ったときだな。春川専務に頼まれて川添と「FUFU」へ行った。それだけだ」
「じゃあ、仕事上のこと…」
「当たり前だろ。あの女と同じ空気は極力吸いたくない。向こうが無駄に近づくから、すぐに運転して会社へ戻ったんだよ」

そうだったのか。
ずっと心に張り付いていた淀みが流れた気がした。
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