お前は、俺のもの。

「凪…本当に?」
「ご、ごめんなさい。その、どうしても言えなくて…」
項垂れて謝る私に、鬼は両腕で強く抱きしめた。
「…元彼がいたから、初めてじゃないと思った」
鬼の両腕に、力がこもる。

「凪、絶対にお前を大切にする。だからお前の全部を、俺にくれ」

それはまるで自分に言い聞かせるような、心に刻み込んでいるような、そんな掠れた声だった。


「一ノ瀬課長…」
と言った途端に、私の頬がむぎゅっと抓られた。
「イタタ…」
「こら。会社以外で課長呼びはやめろ。名前で呼べ」
「名前…んっ」
胸の刺激に声が出てしまう。
鬼は肌の赤いバラを満足そうに見て、「そう」と答えた。
「俺の名前は、散々書類に書いているだろ」
そう聞こえた直後、今度はお腹にチクリと小さな痛みを感じた。
「名前…あっ」
話したいのに度々感じる痛みに、上手く言葉にならない。

鬼はゆっくりと敏感な部分に触れて、私の反応を感じ取る。
「俺の名前、言って」

──そんなこと、言われても。

「だ、だから、一ノ瀬課長」
やっと言えた言葉に、下腹部辺りにあった鬼の頭が、素早く這い上がってきた。
「あっ…ん!」
噛み付くような、激しいキス。

「課長呼びは、ダメ」
「だ、だって。名前って」
「何度も俺の名前書いてるだろ?」
「書いてます。でも」
「じゃあ、名前も言えるだろ?」
「……」
「…ん?」

鬼の眉間に、シワが浮かぶ。
一瞬でギクリと固まる私。お互いの間に、少しだけ隙間ができた。

「な、名前は書けるんです!きへんに、那覇市の「那」です!当たってますよね…?」
「当たり前だ。違っていたら、全ての書類の名前が間違っていることになる」

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