お前は、俺のもの。
満島 凪がいなくなった営業部は、加瀬部長をはじめとしたフロアの社員全員が沈黙の中にいた。
斉木課長と加瀬部長がアイコンタクトを取り合う。
「さて、これから台風で天候が荒れてくる。しかし自分たちの現場を完成させるために、一ノ瀬と満島は長野へ向かった。俺たちが出来ることは、あの二人が無事に戻ることを祈るしかない。そして、あの二人に代わって、やらなければならないことが出来た」
加瀬部長は指でシルバーフレームをくいっと持ち上げ、その奥の鋭い瞳を部下たちへ注ぐ。斉木課長もいつも穏やかな顔つきであっても、目が全く笑っていない。
「例え一ノ瀬課長が個人的に発注した商品であっても、一ノ瀬リビングが請け負った現場で使用する展示品の一つです。あの二人がキャンセルしてないとすれば、誰かが商品を知ってキャンセルしたことになります。これは明らかに会社に対する業務妨害に値します。オレたちは営業部内の責任として、その人物を見つけなければならない」
斉木課長の言葉に、フロアの隅で営業企画課のメンバーもこの状況を見つめている。その中に小堺るみの姿もある。
小さな話し声の聞こえる中、「あの」と綾乃が遠慮がちに手を挙げた。
「一ノ瀬課長が発注して勝手にキャンセルされた商品は、一体何だったんですか?」
その質問に、加瀬部長は鬼課長のデスクから一つのファイルを持ち上げた。
「それは職人の手で作られる、世界に二つとない、これだ」
彼は鬼課長が描いたと思われるそれを、社員たちの前に掲げた。