お前は、俺のもの。
長野へ向かう県境まで来ると、風は強いが雨は小雨程度だ。
スマホで台風の位置を確認する。台風の進路予想図では、あと一時間ほどで会社の辺りは暴風域に突入する。長野は夜遅くになってから暴風域に入るようだ。しかし長野全域ではなく、南半分くらいの範囲である。
風はこれから更に強くなる。
「一ノ瀬課長、長野のどこに行くんですか」
「飯山だ」
「飯山…?」
「長野市の北だ。まだ三時間以上はかかる」
「随分遠いですね」
「だから帰れと言ったのに」
鬼課長が心配していることはわかる。台風が必ずしも進路予想図どおり進むとは限らないし、天候が悪化すれば河川の氾濫や土砂崩れが起こることだってある。
──でも、離れたくない。
「こんなときだからこそ、一緒にいたいんです」
膝の上に置いたカバンをぎゅっと握る。
その手を、横から伸びてきた大きな手に優しく包まれた。そして彼の低い声が聞こえた。
「今から取りに行くものは、俺がどうしても手に入れたいものだ。引き取っても少し手を加えないといけないから、まだ見せることはできない。完成したら一番に凪に見せてやる」
まだ商品が見れないと知ると、残念な気持ちになる。
「約束ですからね」
と、私が折れる形となったが、「どうしても手に入れたいもの」と聞いただけに、気になってしまう欲張りな私だった。