お前は、俺のもの。
途中のサービスエリアで車を停める。
「今のうちにトイレを済ませておこう。ゆっくり夕食が出来ないから、おにぎりとか買って車の中で食べながらになるけどいいか?」
と鬼課長に言われて、由奈からもらったメロンパンを思い出す。
「事務所を出るときに、由奈ちゃんからメロンパンをもらいました。二つあるので、それも食べましょう。あと、飲み物も買いたいですね」
私はそう言いながら、彼と車を降りた。
二人でサンドイッチとおにぎりとメロンパンでお腹を満たして、少しずつ強くなってきた雨風に逆らうように高速道路を走り続ける。
「一ノ瀬課長、疲れたら言ってください。運転、代わりますから」
ずっとハンドルを握る鬼課長に申し訳ないと思い、声をかけてみる。
すると、彼は途端に顔を歪ませる。
「気遣いは有難いけど、まだ死にたくないからやめておく」
それは悪天候でハンドルを取られるのが心配だから「やめておく」と言ったのか、単に私の運転が信用できないから「やめておく」と言ったのか。
多分、後者だろう。
ナビの目的地までの到着時間からして、まだ半分くらいの位置だと思う。運転の交代を断られた私は、助手席にじっと座っていた。
やがて、無言で運転している鬼課長が「はあぁ」と、大きなため息を吐いた。
「凪、勘違いするなよ」
と、隣から聞こえた。
「お前の運転を信じていないわけじゃない。お前が運転して万が一事故にあったとしても、凪と一緒に死ぬなら後悔はない。けど…」
言葉を切る鬼課長に、私は彼の横顔を見上げた。
「惚れた女が、やっと自分のものになったんだ。こんな時に大切な女に運転させるような、情けない男になりたくない」
どきんっ。
「惚れた女」とか「大切な女」とか言われてしまうと、鬼課長に甘く束縛されている気になってしまう。