お前は、俺のもの。

母は「とにかく」と立ち上がる。
「私は、女たらしな息子に、あんなに可愛くて優しい「なぎちゃん」から名前をもらったと思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいだわ。あなたも少しは反省なさい!」

「だから、顔もわからない「なぎ」に反省する意味がわからねぇよ。てか、女たらしって」

少し興奮気味な母に、どこまでも冷静な息子。

「いい、梛?これから大人に成長すれば、いずれお父さんはあなたに結婚相手を見つけてくるわ。」
「別に俺は誰と結婚しても変わらない。女なんてみんな同じだしな」
「そうね。私から見れば、お父さんが見つけてくる肩書き好きなお嬢様やあなたが連れて歩く下品な女は、みんな同じに見えるわね」
母はそう言って息子を見下ろした。

息子はグラスを持って立ち上がる。
「梛」
母は呼ぶ。そして三本の指を立てて突き出した。

「梛。まだ若いから実感ないでしょうけど、結婚話なんてすぐに出てくるわ。あなたの選択肢は三つ。今ここで決めなさい」
「は?まだそんなこと言ってるのか」
両目を吊り上げて喋り倒す母に、呆れて逆三角形の目を半分閉じる息子。
しかし母は自分を突き進む。

「まず一つ目は、自分の何もかもを諦めてお父さんの決めた結婚相手と結婚する」
「ありえない。てか、話を進めるな」
「二つ目は、あなたの決めた下品な女のために、お父さんを説得して下品な女と結婚する」
「余計な労力は使いたくない」
「下品な女を抱く労力はあるのにね?」
「……」
目を逸らす息子。
「三つ目は、あなたに名前を分け与えた「なぎちゃん」を見つけて結婚する」
「それこそ不可能だ。名前しかわからないのに、どうやって探し出させと?」

ますます不機嫌になっていく息子に対し、ますます瞳を輝かせる母。

「私、あの子が近くにいる気がするの。さあ、梛。三つのうち、どれにする?」
「自分のことは自分で決める。どれも選ばない」
キッチンのシンクにグラスを置いて、リビングを出る息子。
母はその後ろ姿に言った。

「人生は一度きりよ。私なら、どんなに年をとっても名前をくれた人に会ってみたいと思うわ」


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