お前は、俺のもの。
「やるよ。俺のもあるから」
彼の反対の手には、ブラックの缶コーヒーがある。
「あ、ありがとうございます」
「あのさ」
鬼課長の低い声が、上から降りてくる。
顔を上げると、僅かに目尻の下がった逆三角形の瞳と重なる。
トクン。
トクン。
小さく打つ鼓動を感じながら、鬼課長を見つめた。
彼は、ポツリと言った。
「二人でいるときは……「ありがとうございます」じゃなくて、「ありがとう」でいい」
──それって、どういう意味?
頭の中で小さな混乱が生まれる。
「え、でも…い、一ノ瀬課長は上司なので…」
「別にいいんだよ、二人の時はタメ口で。もう一度、言ってみろ」
「そんなこと、言われても…」
──一体、何の拷問よ?
気持ちが落ち着かず戸惑っていると、彼の大きな手が私の肩に触れた。
「凪、大丈夫だから」
名前を呼ばれて、ハッと息を飲む。
鬼課長は私と同じ目線まで腰をかがめて、優しい瞳で口元を少し緩めた顔は、ドキドキと脈打つ心臓を簡単に射抜くほどの破壊力があった。
──か、カッコよすぎるっ。
「あ…ありが、とう…」
小さく開いた口から、頼りない自分の声が漏れた。
「ん」
鬼は短い返事をすると、私の肩に置かれた手でふんわりと広がるくせ毛の髪をひと撫でした後、再びエレベーターへと戻って行った。