お前は、俺のもの。


「あらあら…」
一人のご婦人がパンフレットや広告を床に落としてしまったようだ。
私は跪いて、散らばったそれらを集めた。

「はい、どうぞ。よろしければ、紙袋をご用意しましょうか」
と声をかけてみる。
雰囲気や身につけているものが上品そうな女性だ。私の母と同年代くらいのその人は、自分の拾ったパンフレットを抱えて「ありがとう、いただくわ」と苦笑した。
私は彼女のパンフレットも受け取り、「では行きましょうか」とカウンターへ歩いた。

「助かったわ。ありがとう」
パンフレットの入った紙袋を手に、安心した顔をするご婦人。その視線が下へいき、私の社員証のICカードに止まる。

「…なぎ、ちゃん?」

彼女は私を見つめる。
私は「はい?」と、初対面のご婦人を見る。


「こんなところにいたのか」

後ろから声が聞こえて振り向くと、口をへの字に曲げた鬼課長が立っていた。
「あ、一ノ瀬課長」
「あ、一ノ瀬課長、じゃないだろ。ここはムダに広くて探すのが大変なんだ。あまりウロウロするなよ、社員が迷子なんて有り得ないから」
「ま、迷子じゃないですよっ。こちらのご婦人がパンフレットを抱えていたので、紙袋に入れてお渡しした……あれ?」

さっきまで一緒にいたご婦人の姿はなかった。
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