Sync.〜会社の同期に愛されすぎています〜
「心春さん。母乳は出てる?これ母乳がよく出るお茶なんですって」
義実家へ行くのは苦痛だ。
しかし、孫の顔を見せに行かないと大量の電話と、自宅への訪問がある。
あれやこれやと子育てグッズや子育て情報を渡される。

「これね颯太が赤ちゃんの時の写真なんだけど・・・あら・・・あんまり似てないわね。
そういえば心春さんにもあんまり似てない?」

私の顔を凝視しながら問う義母が恐ろしい。

「そんな子供の顔なんてコロコロ変わるだろ・・・」
義父は呆れながら言う。

(もしかして、感づいている・・・?)


義実家からの帰り道、力尽きた私はマンションの近くの公園のベンチに座った。
たくさんの子供連れが公園で遊んでいる。おそらくもう産まれた地点で、いや産まれる前からもうママ友は始まっている。ほとんどがいくつかのグループに分かれていて楽しそうに話をしているが、その中に割り込んでいく能力は持ち合わせていない。
今まで、どんなに仕事を頑張っていようが私はただの母親で、誰にも評価されずに見返りのない労働を続けているようだ。私は、きっと子育てに向いていないんだと思う。
何も楽しくないし、成長が嬉しくない。

子供なんて可愛くない・・・・


「大丈夫?」
その声に顔を見上げると、蓮がいた。

はっきり言って今一番会いたくない。

「うん。別に・・・・」
そういって私は、蓮の顔を見ないように公園を去ろうとする。その顔を見たら涙が出そうだから。

しかし、私の手を蓮は掴む。
こんな人目につくところで何してんの?


「ちょっと俺んちおいでよ。お茶でもしない?」

「彼女にバレたらどうすんの?ご近所の目もあるし」

「あいつは別に彼女じゃない。ご近所って言っても下の階に住んでるんだから、上の階で俺たちが会っててもわからないだろう。」

そう言って、私は強引な蓮の後をついていく。
気がつけば私たちはなんだか逆転している気がする。入社したての頃は私からグイグイ誘っていたわけだし


最上階だけあって、我が家よりも広く窓から見える景色も違う。
机の上には、最新のパソコンが3台ほど並べられており、株価が表示されている。
必要最低限の洗練された家具と、綺麗に片付けられた部屋はあの頃住んでいた1Kのボロアパートとは違った。
自分の力で「富」を手にした彼の背中が遠いところにある気がした。

「子供ここに転がしなよ。重いでしょ。」
そう言って、座布団の上にタオルを敷いて簡易的な布団を作ってくれた。

「この間はそう言う空気じゃなかったからそのまま帰ったけれど・・・心春に聞きたいことがいっぱいある・・・」
蓮は、少し怒った様子だった。


「なんでいきなり去っていった?なんで結婚したんだよ・・・やっと忘れられたと思ったのになんで突然俺の前に・・・」

「私だって、離れたくなかった。でも・・・」

言いかけた私に、「借金だろ?」と蓮は答える。

「あの後、会社に残って結果出して社長には借りたお金を全額返した。いなくなった俺の親も見つけて、今通院してるし、会社やめて起業して、株で儲けて、このタワマンの最上階買った。家柄なんて関係ないこと証明してやりたかったから。それで、心春の父親に認めてもらって心春と結婚するつもりだった。」

「ごめん・・・」

「心春は今、幸せ・・・?」


(苦しい、辛い、逃げ出したい、助けて・・・全然幸せなんかじゃない。毎日息が詰まりそう・・・)


「幸せだよ・・・」
私の頬から涙がつたう。その涙を蓮は優しく指で拭った。


「そっか・・・よかった・・・これでお前のこときっぱり諦められるわ・・・」

そう言って、蓮は涙をこらえながら笑った。

(下手な嘘だって気づいているくせに・・・)

「それだけわかれば充分。ごめん人妻を呼び止めちゃって・・・お前、一人で抱えこみ過ぎ。男はこれやってあれやってって指示しないとわからないんだから。旦那のこともっといいように扱えよ。」

「うん」

「じゃあな。もう会わないようにしような・・・」
そう言った声が涙ぐんでいた。


息子を抱き上げようとした瞬間に蓮は私を抱き寄せた。
蓮の温もりと香りを懐かしく思う。


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