Bloody wolf
「・・・チッ、しゃあねぇな、覚えるか」

仕方なくじゃなくて、本気で覚えろ。

突っ込まずに豪の後に続いて部屋を出ようとすると、秋道が声をかけてきた。



「気を付けて帰ってくださいね」

「ん。ありがと」

「豪、頼みましたよ」

「ああ、任せとけ」

頷いた豪に、安全に帰れそうだと思えた。


視界に入れないようにしても、どうしても目に入るので一応念のために聞いておくか。


「あれ、大丈夫なの?」

燃え尽きた・・・という学校でうつ向く晴成を顎で指した。

「ええ、問題ありませんよ。明日までには復活するはずです」

「そう、ならいいけど。じゃ、今度こそ帰るね」

復活するならいいやと罪悪感は消えた。

そもそも私は何も悪くないしね。


「ええ、明日の体育祭楽しみにしています」

満面の笑みでそう言われたが、楽しみになんてして欲しくない。

元々そんなに気乗りがしないのだから。


「最後の平和な一日を今夜はしっかりと噛み締めるわ」

そう、明日以降は平和が崩れるのだから。

「ククク・・・実に面白い」

面白くないわ、とツッコミを入れるのを止めて背を向けた。


「響ちゃん、また、明日ぁ~」

光希の声に後ろ手にひらりと手を上げる。


「響ちゃん、明日は美女を見繕っといてくれよぉ」

瑠偉のくだらない戯れ言には反応しなかった。






豪は安全運転で、マンションまで送ってくれた。

晴成よりも乗り心地が良かったのは驚きだ。

彼の誠実さが出るような運転だったと思う。


私を下ろした後、無駄口を叩くことなく帰っていくのも、寡黙な彼だからこそだ。

そんな彼に好感が持てたので、一度ぐらいは手合わせしてもいいかな? ぐらいには思えた。


お風呂は入り寝る支度をしてロフトに上がる。

目を瞑って、ふっと幹部室での晴成の姿を思い出した。


あんなに落ち込むとは思ってなかったなぁ。

女の子を連れ込んで、遊んでたのは晴成なのに、それを言い当てただけで、私が悪者みたいになったし。

そこは、自業自得だと思ってほしい。


あれだけ顔がよくて、総長なんて言う地位にいれば女の子なんて入れ食いだよね。


多分、私が晴成の立場だったとしても遊ぶかもしれない。

でも、ちょっとだけモヤモヤする。

特定を作らなければ何をしてもいいって訳じゃないしね。


家を省みず外で相手を作った両親の顔がぼんやり浮かんだ。

なんだろう・・・この晴れない気持ちは。

清廉潔白じゃないとダメだとか思わないけど、何となくやるせない気持ちが沸いてくる。


あ~ダメダメ、考えてると眠れない。

頭を軽く振って頭に浮かんでいた全てを無にして、目を瞑った。


明日のために寝る。

うん、そうしよう。
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